« 2009年3月 | トップページ | 2014年1月 »

親子小説

アメリカから帰国したら『古典』に挑戦してみようと、うずうずと思っていました。

アメリカで暮らして、日本の良さを改めて認識するというのはありがちですが、私もまたそのありがちな人たちの一人だったわけです。

アメリカというのは、やっぱり良い意味でも悪い意味でも”新しい国”なんだと思う。アメリカ人が、ヨーロッパやアジアの文化にほのかに憧れを抱くというのは分かる気がします。

英語もうまく読みこなせないくせに、えらそうなことを分もわきまえず述べてしまうと、日本語の奥行きのある感じ、一枚向こうにまた何かにおわせる力を感じる部分は、そのまま歴史の長さ、奥深さにつながるような。

そのくせ、実際に帰国しても、私は『古典』と呼ばれる作品に手が伸びないでいました。久しぶりに帰ってきた日本には、現代の面白そうな本があふれています。

そんなときに会った友人がこんなアドバイスをくれました。

「今は『古典』の作品をテーマにした面白い本がいっぱい出てるから、まずはそういう本を読んでみて、興味があったら実際に読んでみたら」

確かにそうです! 私はどうも変にかたくなで、肩に力が入っているというか視野が狭いというかそういうところがあるようです。

『古典』のなかでも特に挑戦してみたいと思っていたのが”源氏物語”です。私のお気に入りのブログ<英語は楽し>でさくらさんが、英語で”源氏物語”を読むことに挑戦されています。それまで恥ずかしながら漫画の”あさきゆめみし”しか読んだことがなかった私ですが、さくらさんのブログで<源氏物語=華麗な恋の絵巻>というイメージが少しずつ変わってきました。

さくらさんのユーモアあふれたつっこみを楽しみながら、源氏物語には、毒があり、滑稽な人間模様あり、そして悲しい人間の性がありと、奥の深い豊かな物語であることが分かってきてどんどん興味がわいてきました。

源氏の男はみんなサイテー (ちくま文庫) Book 源氏の男はみんなサイテー (ちくま文庫)

著者:大塚 ひかり
販売元:筑摩書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

友人から大塚ひかりさんという名前を教えてもらい、本を検索して何だかほっとしました。この表紙、この題名、私でもとっつきやすそう。

目次を読んでもらえれば、その面白さは十分分かっていただけると思います!

・光源氏 実は昔からもてなかった彼

・頭中将 体育会系男の女々しさと律儀さ

・柏木 「悪役」光源氏の引き立て役

・夕霧 俗物化していく息子

などなど。他の登場人物についても、大塚ひかりさんは、サイテー男たちをバッサバッサと斬っていきます。

そして、この本の副題は”親子物語としての源氏物語”。

源氏物語は、光源氏の両親の物語から始まります。

『源氏』が常に現代的なのは、そうした時代的な悲劇が、桐壺帝という個人の悲劇として描かれ、さらにその苦悩が、子供や孫、曾孫といった子孫達に受け継がれ繰り返されていくところだ。

そして、親子物語は、光源氏の長男夕霧と、頭中将の長男柏木に続いてゆきます。光源氏と柏木、頭中将と夕霧、という形で、まるで血筋が受け継がれるかのように、たがいちがいに似通っている点を指摘し、大塚さんは次のように述べています。

親は子に、自分が果たせなかったものを求め、子はそれに反発しながらも、無意識のうちに親の望みに応えようとする。そして身をあやまち、ときに親の期待とは正反対のねじれた結果を招いてしまう。そうして獲得した子供の世界が、親の世界と比べてどれだけましかというと、場合によっては親以下だったりする。そんな悲しい親子の仕組みが『源氏物語』にはある。

どきりとしました。これから親になる予定の身。

更に、父方も母方も共に敗北者の系譜上にあるという、薫の暗い人生へと指摘は続いてゆきます。

元気にお腹で動いている赤ちゃんに、私はこう思います。

無事に元気に生まれてきてくれますように。

それだけでもう十分。

押し付けず、導くことができますように。

刷り込まず、育むことができますように。

とはいえ、大昔から読み継がれている『源氏物語』に書かれているくらいだから、親の子への愛というものはそんな風に頭で考えるような理想通りにはいかないことでしょう。

『源氏物語』に出てくる人々のように、悩み、苦しみ、時には涙を流し、一方で生きる喜びに震えながら、体ごと経験しながら生きていくしかないのかもしれません。

けれど、やはりまだ甘いのかもしれませんが、それでも私はこれからの親になるであろう自分の人生が楽しみで仕方がないのです。

改めて紫式部という人はすごい才能の持ち主だったのだなあと思いました。そして、大塚ひかりさんのこの本は、表紙のイメージとはほど遠い(というのは失礼ですが)読み応えのあるずっしりとした本でした。

apple興味のある方は、ぜひさくらさんの<英語は楽し>もご覧ください!

にほんブログ村 本ブログへ

ゆるゆるの日々

私は”エッセイ”(随筆)が大好きである。最近は脳みその動きが鈍くなったのでやっていないのだが、以前は和書の場合、小説とエッセイを少なくとも二冊以上は平行読みしていた。

小説なら割と慎重に選ぶ私でも、エッセイになるとお堅いものから軽いものまで何でも読む。中には司馬遼太郎さんや、幸田文さんのように、小説にはあまり手が伸びず、エッセイのほうがよく読むという作家もいる。

特に私は”ゆるゆるエッセイ”の大ファンである。”ゆるゆるエッセイ”とは、ブログを書いているこの瞬間、私が勝手につけた思いつきの名称である。主に身の回りの日常のことを題材にする。食べ物、ペット、旅行、ファッション、周囲のおもろい人や出来事などがテーマであることが多い。

憤怒のぬかるみ―さんざんな男たち女たち (集英社文庫) Book 憤怒のぬかるみ―さんざんな男たち女たち (集英社文庫)

著者:佐藤 愛子
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

犬たちへの詫び状 (文春文庫) Book 犬たちへの詫び状 (文春文庫)

著者:佐藤 愛子
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

佐藤 愛子さんのエッセイを、私は中学生のころから読んでいた。このほかに『娘と私シリーズ』というのがあって、これも大好き。考えてみれば、面白くて笑える文章の私のスタートは佐藤 愛子さんのエッセイだったかもしれない。

どぜうの丸かじり (文春文庫) Book どぜうの丸かじり (文春文庫)

著者:東海林 さだお
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ホットドッグの丸かじり (文春文庫)

このゆるゆる感、良いですね~。脳がゆるみ、体がゆるみ、あまりに美味しそうなので口元までゆるんでしまう。

他にも”ゆるゆるエッセイ”の作家にはお勧めの人がたくさん。村上春樹さんの『村上朝日堂シリーズ』や、群ようこさん、宮沢章夫さんなどなど。

こういう”ゆるゆるエッセイ”のことを、万が一にでも「しょーもない。誰にでも書けるわい」などと鼻で笑っている方がいらっしゃったならば、お腹が大きい私だが、一発何とか回し蹴りを差し上げたいくらい、怒ってしまうと思う。

こういう文章は確実に絶対に誰にでも書けるものではありません!と言いたい。読んでみればよく分かる。実際に自分で文章を書いてみれば、もっと痛いほどよく分かると思う。

熱いお茶を入れて、お気に入りのクラシックの曲を小さな音でかける。ソファーに横になって座り、”ゆるゆるエッセイ”のページをめくる。一つ一つの章立てが短いので、一話を読みきったときに疲れてたら本を置いて目をつぶる。静かなピアノの音を聴いているうちに、何だか意識が遠のいていく…。

…と思ったら、赤ちゃんがお腹でムクムク動いた! 私は目を開けて、お茶を一口飲み、また本のページを開く。スピーカーから春のひだまりのような柔らかいクラリネットの曲が流れる。

”ゆるゆるエッセイ”を手に、私のゆるゆる妊婦生活が過ぎてゆく。

にほんブログ村 本ブログへ

将軍に完敗

私の母は、あまのじゃくな私と違ってたいへん素直である。本屋に平積みしてある話題の本を、素直に躊躇せずに手に取って買ってくる。この本たちが、悔しいことにものすごく当たりであることが少なくない。

『チーム・バチスタの栄光』に続いて母に貸してもらったのがこちら。

ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫) Book ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫)

著者:海堂 尊
販売元:宝島社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ジェネラル・ルージュの凱旋(下) (宝島社文庫)

少し前から映画も公開されて、かなり話題の作品。東城大学医学部付属病院の窓際族<田口 公平>と、厚生省のロジカルモンスター<白鳥 圭輔>の凸凹コンビが送る”メディカル・エンターテイメント”。

今回は、救命救急センターが舞台。センター長は『ジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)』と呼ばれる切れ者の<速水 晃一>。この速水の収賄疑惑を、同期で友人の田口が捜査するはめになる。

最近めっきり”血”の描写に弱くなった私だが、母からこれなら大丈夫と言われた通り、食欲のかたまりである私の腹時計が、昼ごはんを食べる時間を知らせ忘れるという、考えられない誤作動を起こすほどの、”血”の心配も吹き飛ぶ吸引力のある作品だった。

とても途中で本を置くことができない。こんなに医学の専門用語が出てくるのに、そして今回は会議という場で議論を延々と続けるという場面が少なくないのに、ページをめくる手がまったく滞らないのはなぜだろう。

登場人物のキャラクターが魅力的に書きこまれているし、会話をはさんで進む文章のリズムに乗りやすいし、ユーモアを忘れていないし、読者が期待している箇所で爽快感を感じさせる描写がきちんと用意されている。

医療の根幹の一つを担う『救急医療』が、かたや病院のお荷物となる採算のとれない分野となる矛盾を、現場のさまざまな立場の登場人物たちに分かりやすく語らせることで、深刻な問題として浮き彫りにしていく。

『チーム・バチスタ』でも感じたのだが、ラストが私は好きだ。さわやかで、未来に繋がる希望を感じさせる。

知識を得てためになる、考えさせられる、刺激になる、じゃなくて

読書は楽しむためにあるのですsign03

本は喜びのためにあるのですsign03

と、思わず叫び出したくなる気持ちになる作品でした。

にほんブログ村 本ブログへ

« 2009年3月 | トップページ | 2014年1月 »