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The known world

昔、人間を皮膚の色だけで判断する時代がありました。人が人を、家畜や日用品と同じように、売買する時代がありました。

The Known World Book The Known World

著者:Edward P. Jones
販売元:Amistad Pr
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ページ数: 432ページ

黒人が、まだ奴隷として売り買いされていた、南北戦争以前のアメリカはヴァージニア州、マンチェスターを舞台にした作品である。黒人でありながら、33人の奴隷を使っていたHenry townsendが31歳の若さで死んだところから物語は始まる。

マンチェスターで最も有力な白人、Robin Williamsの奴隷であったHenryは、自分が奴隷から自由の身になると、主人であったRobinを通じて奴隷を買いはじめる。なぜ黒人の苦しみを知っているはずの同じ黒人のHenryが、奴隷を使うようになったのか、家族や周囲の人々の心情も丁寧につづりながら、作者はHenryの人生をちらちらと少しずつ明かしてゆく。

Henryのプランテーションで働く奴隷たちの人生もまた、あちこちに綴られている。

安い値で買われた頭のおかしな女の奴隷、Alice。

逃亡をはかろうとして、罰として片耳を切り落とされる男、Elias。

そのEliasと結婚する、足の不自由なCeleste。

さらに、”奴隷”以外の人間を描くことも作者は忘れていない。

奴隷から解放されて自由の身になった黒人を誘拐して、売りさばく違法業者。

それを見て見ぬふりをし、むしろそれに加担するパトローラーたち。

そのパトローラーを管理する保安官のJohnは、自身では奴隷を持ちたくないと思っていたにもかかわらず、結婚祝いとして黒人の女の子をプレゼントされる。

多くの人物が登場し、さらに多くのエピソードがちりばめられている。後ろに登場人物表が載っていて、とても役に立った。

文章の温度は低い。悲しいシーンも、惨いシーンも、淡々と進んでゆく。新聞の記事をあちこち拾い読みしているよう。しかし、そこに安易な図式は一切見えない。白人が悪者で、黒人が善良であるとか、金持ちが腹黒くて、奴隷がただかわいそうな人だとか、そんな簡単な計算式は一つも載っていない。

Henryが初めて買った第一号の奴隷、Mosesは、Henryの死後に悲しみに暮れる妻のCaldoniaに急接近する。それが、新たな悲劇に向かって、この物語を衝撃の結末へとひっぱってゆく。

いくら「法律が悪い」とか「制度のせい」と言って仕方がないとあきらめていたとしても、その法や制度に従わざるを得ない立場にいると悟っていたとしても、その理不尽さに心を痛めたり、大切な人を失って絶望したり、苦しんだり、悩んだり、闘ったりしながら、一人一人が生きていくことは、実は時代の流れをつくる、大切な力なのではないかとこの本を読んで思った。奴隷制度を廃止するという大きな流れをつくったのは、直接は政治に影響がないように見える、日常を生きてきた多くの人々の思いなのかもしれない。

毎日、楽しいものや美しいものに囲まれて、自由に表現できて、好きなものを手に入れられる現代の私たちを、歯をくいしばって支えてくれている、過去の、そして現在のたくさんの人たちの命や思いが見えるような気がした。

"Moses had thought that it was already strange world that made him a slave to a white man, but God had indeed set it twirling and twisting every which way when he put black people to owning their own kind."

作者のEdward P. Jonesは、アフリカンアメリカンであり、1951年生まれ。本作品で、ピューリッツァー賞を受賞しています。

いやーそれにしても、この本は読んでいてしんどかったです。一日に、たくさん読み進められませんでした。つまらないからではなくて、あまりに胸にひびいてしまうから。黒人の多く住む地域に住んでいるからなのか、めりめりと気持ちが沈むというか、ため息が体に溜まってくるというか…。好き嫌いという基準を大きく越えた、忘れられない本になりました。

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