« あの日 | トップページ | Unless »

A Place of Greater Safety

この物語の旅がとうとう終わってしまいました。読み終わりたいのに、いつまでもページをめくっていたいような、そんな気持ちで読書を続けてきました。

A Place of Greater Safety Book A Place of Greater Safety

著者:Hilary Mantel
販売元:Picador USA
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ページ数: 749ページ

Robespierreは、横たわる母の顔を見て、母親が死んでゆくことが分かった。「母さんはもうすぐ棺に入るの。そして埋められるのよ」彼は母が声に出さずにそう言ったのが分かった。Robespierreが6歳のときだった。

母親が亡くなったあと、父親は家を出て戻らなくなった。子育てを放棄したのだ。祖父とおばが面倒をみてくれることになった。これ以後、Robespierreが人生のなかで両親について述べることは二度となかった。

すぐれた学才のあったRobespierreは、やがてルイ大王学院(Louis-Le-Grand)に通うこととなり、そこでCamilleと出会う。二つ下でわずか10歳の彼は、とても美しい少年だった。彼の吃音はRobespierreを落ち着かなくさせたけれど、誰にも心を開いてこなかった彼にとってCamilleは唯一の友達となった。

Camilleは学校を卒業すると、パリで弁護士として働くこととなる。同じ年頃の弁護士のなかに、めきめきと頭角をあらわしたやり手の男がいた。頬から唇にかけて醜い傷を持つ彼の名はDanton。

―― 1789年、フランス、パリ。

仕事をし、金を稼ぎ、はやく結婚をして家庭を持ちたいと考えていたDantonは、しかしCamilleを介して少しずつ革命の波へとのみこまれてゆく。多くの人望を集めた彼は、その力のある声を武器に革命を動かしてゆくことになる。

新しい時代への原動力となる多くの人たちをつなぎあわせたCamilleは、一方で人妻に恋をし、その気持ちは執着へと変わり、彼女の娘と結婚することを考え始める。

人との争いを好まず、人を傷つけるのも自分が傷つくのも恐れ、毎日をやりすごすのに疲れきっていたRobespierreは、多くの飢えた人々を救うために、革命に命をかける決心をする。

―― 果たしてフランスに革命は起こせるのか。彼らはフランスを「A Place of Greater Safety」に変えられるのか。フランス革命の時代を生きた三人の男たちの物語。

作家について

イギリス、Glossopで生まれる。CBE(大英帝国勲章)の称号を持つ。ソーシャルワーカーとして、ボツワナで5年間、サウジアラビアで4年間を過ごす。その経験を題材にして書かれた作品もある。(*彼女の書斎の写真を見つけました♪→こちら

感想

物語の主人公、マクシミリアン・ロベスピエール、カミーユ・デムーラン、ジョルジュ・ダントンは実在の人物です。三人は盟友同士であったことも知られています。

前半は彼らの子供時代が語られています。ほとんど事実が知られていないというこの時代の三人を、作者はおそらく綿密な調査をし、周到かつ自由な想像力でつくりあげています。そして人格が形成されるにいたるその芽を見過ごすことがなく拾いあげて書いているように感じました。

中盤、彼らがパリに集まるころから、私のページをめくる手が更にスローになっていきます。あちこちで繰り広げられる政治的な交渉、策略、行動をつかむのにじっくり時間をとりました。実在の人物がどんどん登場します。革命擁護派の貴族「ルイ・フィリップ二世」、革命の獅子「オノーレ・ミラボー」、ジロンド派「ジャック・ピエール・ブリッソー」、その派閥の女王「ロラン夫人」、人民の友と呼ばれた「ジャン=ポール・マラー」。インターネットで調べているうちに、そちらのほうに夢中になってしまうほど魅力的な人物たちが登場します。

また、三人の男たちの女性関係も大変おもしろい。Cammileと大恋愛の末に結ばれたとされるリュシル・デュプレシについて、歴史的に知られている事実と全く異なった捉え方で物語をおこしています。全体的に女性の描き方がとっても魅力的で、おもしろい、おもしろい。(とおもしろいを連発するほどおもしろいです。)

ここを乗り切ると、後半からはもうこの本にどっぷりはまりこみます。歴史上の事実として知られているラストも、やはり読むに値する、すばらしいドラマが用意されています。

注目すべきは語り口。多くの人たちが登場し、ときには一人称で語りだします。これだけ多くの人たちが、入れ代わり立ち代り現れるのに、その声に独自の色がありリズムがあり、はっきり書き分けられているところはすごいなあと思いました。

「自由・平等・博愛」をうたったフランス革命。同時にこの時代は、ギロチンとよばれる断頭台が多くの人々の命を奪った、暗黒の時代であったことでも知られています。そして世の中を少しでも良くしようと立ち上がった三人の主人公のうちの一人は、テロの語源となった”Terreur”恐怖政治の時代をつくったことでも知られています。

とつぜん話は変わりますが、世の中って、どうやら光(らしきもの)と闇(らしきもの)に分けられているように思います。

たとえば

成功者と敗残者、健康と病気、金持ちと貧乏、出世とリストラ、美と醜、もてる男とそうでない男、若い女とそうでない女、強気な人と弱気な人、おしゃれな人といけてない人、恋人のいる人といない人、友達の多い人とそうでない人…

闇がなくては光が分からない、と以前に書いた覚えがありますが、それでは闇は光を輝かせるためだけに在るのでしょうか。だいたい光だと思いこんでいるものも闇だと思いこんでいるものも、本当にそのものなのでしょうか。光と闇が逆転するとき、価値観が大きくゆらぐとき、光を輝かせている「闇」をもっと別の捉え方でつかめるかもしれない。

ブログを始めてから、繰り返し同じことを書いています。これが私の読書の(もしかして人生の?)大きなテーマなのかもしれません。私は、光らしきものと闇らしきものが一体何なのか、価値観がぐらぐらと揺らぐとき、そのときの人間というものにすごく興味があることを、この本は気づかせてくれたように思います。目指す場所がどんどんはっきりしてきました! ありがとう、Hilary Mantelさん!ヽ(^◇^*)/

この本は少々長いですが、世界史にまったく疎い私でものめりこめました。私は調べながら読みましたが、特に知識がない状態であっても十分楽しめると思います。ただ欲を言えば、ロベスピエールの人物像を中盤、もう少し掘り下げて書いてほしかったです。ごめんなさい、人間て欲望のかたまりなんです…。

Maximilien Robespierre, 1793: "History is fiction."

にほんブログ村 本ブログ 洋書へにほんブログ村 本ブログへ (力が入りすぎて長い文章になってしまいましたが、最後までおつきあいいただき、ありがとうございます。もしも気に入っていただけたら、クリックしてくださると嬉しいです(*^^*))

« あの日 | トップページ | Unless »

コメント

nikoさん、こんばんは。(^^)/

749ページは、かなりの分量ですね。(^^;
手元にある洋書をチェックしたら、ハリーポッター4が734ページでした。
でも、本の厚さというのは、内容が面白ければ、読み進んでいくと忘れますよね。(^^)

「光と闇」は、宇宙開闢以来の永遠のテーマですよね。

それでは、また遊びに来ます。(@^^)/~~~

super源さん
そうなんです、最初は本の厚さにちょっとびびっていたのですが、夢中になってくると気にならないものですね(*^-^*)。そうなんですか、ハリーポッターの4巻目は734ページ…。日本は厚い本があまり売れない、というようなことを聞いたことがありますが、面白ければ、みんなちゃんと手にとるものなんですよね。

nikoさん

Hilary Mantelを読まれたんですね!私は、彼女のBeyond Blackが気になっていたんですけれども、手にとる機会がないままになっていたんです。この本は聞いたことがなくて、Robespierreも、「聞いたことがあるけど、誰だっけ・・・?」としばらく考えてしまったくらい世界史オンチです。こうしてnikoさんが先に読んでくださって、自分自身では絶対に近寄らない本への興味を起こしてくださって、嬉しいです。こうして少しずつ自分の世界が広がっていくのが嬉しい。それにしても、nikoさんの本を探すアンテナ、いつも面白いなーと思っています。

michiさん
Hilary mantelは初めて読んだのですが、とっても好きになりました。Beyond Blackは私もかなり気になっています。アメリカにいる間に、できるだけ多くの作家の本と出会いたいと思い、勝手にいくつかルールを決めています。できるだけベストセラー以外で自分好みの良い本を探す、というのもそのルールの一つです。ベストセラーはたいてい翻訳書が出ていて、日本に帰ってからも読めるんじゃないかなあというのがその理由です。でもこれがけっこう難しくて、膨大な量の本を前に結局話題の本に手が伸びてしまうことになったりします。(^∀^)ゞ
私もmichiさんの読まれる本にはいつも刺激を受けています。憧れてしまう、と言ったらいいのか…。最近michiさんの影響か、イギリスの作家にもがぜん興味が出てきてこまっています(*^-^*)。

おはようございます。
久しぶりにnikoさんの文章を読むことが出来て嬉しいです。
うわっ!読みたい!といつものように飛びつきたくなってしまった本、でもやっぱり私には難しくて残念です。
あまり知らなかった本の世界や思考の幅を今回も広げていただきました。
「光と闇」Super源さんのコメントのように永遠のテーマなのでしょうね。
私のなかでは年を取るにつれて捉え方が変わってきたような、
光と闇を隔てる境界線が希薄になってきたように感じています。


さくらさん
ついつい力が入って、少し長い文章になってしまいましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございます!
私は今まであまり歴史小説というものは読んでこなかったのですが、和書にしても歴史ものをもっと読みたいなあという思いが膨らんできました(*^^*)。あれもこれも興味がわいてきて、うれしい悩みがどんんどん増えてきています。

>光と闇を隔てる境界線が希薄になってきたように感じています。

こういう風にさらっと書けるさくらさんのように、感性を磨きながら年を重ねたいなあと思います。

光と闇の間で価値観がぐらぐら揺らぐとき、ってどんな時なのでしょうか。 またいつかぜひ聞かせてくださいな。
私もこのごろ、日向と日陰ってあるな、とは思っていたところです。 ずっと昔は、自分の前には、日向のぽかぽかばかりが待っているような気がしていたけど、今は日向もあれば、日陰もある、その折り重なりをゆっくり歩いていくのだな、と感じます。
いつもながらnikoさんの読まれる本って、興味深々です。フランス革命というのは、ちょっとエネルギーが必要そうな気がするのですが、面白そう!今度図書館で探してみます。

Dillさん
確かに私もほんの数年前まで、未来には日向たのあたたかい陽だまりだけが待っているような気がしていました。でも最近やっと少し視界が広がって、影がちゃんと必要なんだなあと気がついたように思います。
価値観がゆれるとき…。
そうですね、たとえばこの本のような革命などが起こる歴史の転換点では、多かれ少なかれ価値観は揺らぐのではないかと思います。けれども、本当はほんの小さな揺れが毎日の生活のなかにもたくさんあるのかも、と思ったりします。もっと探求すべく、たくさん本を読んでいきたいなあと思っています。(*^^*)Dillさんがこの本を手にとってくださると嬉しいです!

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/166513/8320277

この記事へのトラックバック一覧です: A Place of Greater Safety:

« あの日 | トップページ | Unless »