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Wise Blood

遅々として進まない「聖書」を前に(詳しくはこちら)むくむくと沸いてくる疑問(´-ω-`)

「聖書」の何が多くの人をひきつけるのでしょうか。たくさんの人が、どんなきっかけで、この本を携えて生きていこうと決めたのでしょうか。この本と共に人生を歩んでいる人は、私とどんな風に違うのでしょう。人生を捉える彼らのまなざしは私の視点と、何が違うのでしょうか。

そんな疑問を持ちながら、インターネットで検索していたら、この本に出会いました。

Wise Blood Book Wise Blood

著者:Flannery O'Connor
販売元:Farrar Straus & Giroux
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ページ数: 232ページ

作品区分: 文学

Hazel Motesは故郷をあとにして「今までやったことのない新しい何かをする」ために汽車にゆられていた。

Motesが18歳のとき軍隊に召集された。彼の父親も祖父も「牧師」だったから、Motesも「牧師」になりたかったし、自分のsoulを政府や戦地に売り飛ばすつもりなどなかった。彼はたった一冊の本「聖書」だけを持って戦地に赴いた。戦地で彼は傷を負い、その傷が癒えぬ前に次の戦地へ送られた。soulなど存在しないことがだんだん分かってきた。「聖書」を読んだけれど、それは「Jesus」とは関係なくて、ただ家を思い出させてくれるからだけだと気がついた。

兵役が終わって、家に戻ってみると、そこには荒れた空き家があるだけだった。何もないし、誰もいなかった。Motesは「Jesus」を捨てることに決めた。

新しい町でMotesは、目の見えない牧師「Hawk」とその娘「Lily」に会う。「Jesusなんていない」と主張するMotesに、Hawkは宣教用のビラを渡し、これを道行く人に配りながら自分の懺悔を人々に告白するように促す。

「Jesusは君を愛しているよ」Hawkにそう言われて、かっとなったMotesはみなに演説をする。「私はキリストのいない教会を設立します!」

一方、自分には「Wise Blood」が流れていると信じている若者「Enoch Emery」は、Motesと出会って確信していた。目的は分からないし、根拠もないが、Wise BloodはMotesこそが、長い間自分が待ち望んできた人物であると告げたからだ。

―― 果たして、Motesは「Jesus」から自由になれるのか。 Emeryの「wise blood」は彼にどんな人生を歩ませるのか。 「Jesus」を信じてきた男が「Jesus」を捨てようともがく、おかしくも悲しい物語。

作家について

フラナリー・オコナーは、1925年にアメリカジョージア州で生まれる。彼女が16歳のとき「紅斑性狼瘡」という難病で父親を失い、自身も同じ病により39歳で亡くなる。カトリック教信者であり、発病後もアメリカ国内を回り活動を行った。二つの長編小説と数々の短編を残し、その作品は,「southern gothic」のジャンルに属すると評されている。アメリカでは今もなお評価の高い作家の一人である。

→ 詳しくはこちらのHPで

感想

冒頭の「Author's Note」で作家自身はこの作品を「Comic novel」だとしています。けれど、この小説にこめられたユーモアは、ドジな主人公が大失敗をして、思わずふきだしてしまった、という類のものではありません。

残酷な行為を感情的に語り、怒りを激しい言葉で吐き出し、悲しみを涙でつづるより、それを「笑い」に変えたほうが、人により伝わるときがあります。「笑い」は、物事を少しつきはなして客観的にとらえることだからです。そんなユーモアで語られるこの作品もまた、登場人物の人生が悲惨なほど滑稽で、滑稽なほど悲しみが胸をうちます。

その特徴を表すかのように、物語は三人称で進みます。一人称に比べて、ぐっと視点が遠ざかります。少し上から眺めて記されるこの物語は、だからこそ、人の営みの愚かさと素晴らしさをより強く心に届けられているように思います。

これは「Jesus」を望み、信じてきた男が「Jesus」を捨て、自由になりたいともがく物語です。

しかしこのJesusが入っている「カギ括弧」のなかには、どんな言葉もあてはまることに気づかされます。

ある人にとってはそれは「お金」であるかもしれないし、

「恋愛」であったり「名誉」であったりするかもしれません。

「ある人から言われた言葉」や、

「ある人の顔」が浮かぶ人もいるかもしれません。

何かを強く望むことと、何かを強く否定することは、同じなのかもしれませんね。

作者は人間というものが、そのもがきの中で光を見出せると心の底では信じているように私は思いました。もちろん明るさに満ちた作品とは言えません。

けれど、真昼より闇夜のほうがろうそくの炎が明るく見えるように、救いのない暴力やヘドロのような悪意を描くことで、その奥でゆらめく小さな光をより輝かせたかったのかもしれないなあと感じました。

翻訳書はこちら→ 賢い血

フラナリー・オコナーは発病した後に、本格的に小説を書き始めました。二つの長編小説と数々の短編を残し、アメリカでは現在もなお評価の高い作家の一人です。彼女は発病後、農園の一軒家で暮らしていました。宗教活動等でアメリカ国内には多少出かけましたが、ほとんどの日々をこの家で過ごしました。発病から亡くなるまでの13年間、親しく会話をする人間は母親一人だったそうです。

世界中を旅していなくても、数え切れないほどの多くの友達がいなくても、人は心のなかに深遠な美しい宇宙を持つことができることを証明してくれたように思います。

最後に一言だけ。彼女の母親「Regina Cline O'Connor」は99歳で1997年に亡くなりました。夫を看取り、娘を看取り、99年間を生き切った彼女の心にもまた、光に満ちた静かな風景が広がっていたことを、私は信じたいと思います。

"I'm sick!"he called. "I can't be closed up in this thing. Get me out!"  the porter stood watching him and didn't move.

"Jesus," Haze said, "Jesus."

the porter didn't move. "Jesus been a long time gone," he said in a sour triumphant voice.

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コメント

実は、この作家、ずーーーっと頭の片隅で気になっていたのですが、どうしても名前が覚えられず、思い出せず・・・という状態だったんです。昔、まだ大杉正明先生のNHKラジオ英会話のころに、南部の作家についてのスキットがあったと思うのですが・・・この人も取り上げられていたかもしれないし、私の勘違いかもしれないし。そして、この作家、アイリッシュ系ですよね。そんなことも気になっていて。だからこうして、きちんと紹介してくださっていて本当に嬉しいです。

「聖書と共に生きている人と、自分との違いはなんだろう」という問いを深めてこの本に出会ったという、nikoさんの姿に「本を読むこと」について色々考えさせられました。これから私も、そんな風に、自分との問いかけをしながら読んでいかなくちゃ、ずるずる歳だけとっていってしまうなぁ・・・と。

宗教と自分の生き方の葛藤が少ない日本人(私も含めて)には、この本にかかれていることを読んで、感想にするの、難しかったと思いますが、こうして感想を拝見できて嬉しく思います。どうもありがとうございました。

michiさん
michiさんは「フラナリー・オコナー」ご存知だったんですね!私は作品そのものだけでなく、それを書く作家にも興味をひかれるほうなので、フラナリー・オコナーの人生についても調べるうちに、深く考えさせられました。
この本の感想は確かに難しかったです…。自分が今感じる範囲でしか書けないので、最初の疑問とはほど遠い、うわべを撫でるような感想になってしまいました(汗)。michiさんがその難しさを分かってくださって、きちんと読んでくださったこと感謝します。ありがとうございました(*^^*)。

 先日、所属している合唱団で、パレストリーナのミサ曲を歌いました。Jesu Christe というところでは、マルコ1.40のらい病人のような気持ちで歌います。学生のときにGood News Bible で読んで以来、"If you want to, you can make me clean." "I do want to." という部分はいつまでも残っています。
 私も旧約は1割ほどしか読んでいませんが、中東、エネルギー問題や、西欧の文芸理解には聖書を読むことが必要ですね。
 コメント、リンク、ありがとうございました。

philjoyさん、コメントありがとうございます。ミサ曲を歌われたんですね(*^-^*)。実は聖書、ち~っとも進んでないんです。ガイドブック的なものを読んでいるので、この本と相性が悪いのかなあ、なんて言い訳をしているところなのです。みんなの頭が情報や知識でいっぱいになればなるほど、目に見えない心のことが引き起こす問題が増えていくようで「聖書」を理解したいなあと、改めて思っているところなんですけどね…。
こちらこそ、リンクいただいてありがとうございました!

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