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The Book of Illusions

久しぶりの読書、ページをめくる喜びをひしひしと感じています。今年一冊目の洋書はこちら。

The Book of Illusions: A Novel Book The Book of Illusions: A Novel

著者:Paul Auster
販売元:Picador USA
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ページ数: 321ページ

作品区分: 文学

「何ヶ月ぶりだろう」冬の初め、Davidは久しぶりに自分が笑ったのに気がついた。

今年の六月、ちょうど10年目の結婚記念日の一週間前に、Davidは妻と二人の息子を飛行機事故で失った。深い悲しみから立ち直れず、酒を飲むか、テレビを見るか、家をただ歩き回って、時をやり過ごしていた。

いつものように、眠れない夜を酒でごまかしながら、テレビのチャンネルを切り替えていると、ふと一つの無声映画が目に止まった。そして、Hector Manという男が主演しているその映画にDavidは久しぶりに声を出して笑ったのだ。

Hector Manは死んだ、と誰もが思っていた。彼は12の映画を残し、ある日突然姿を消した。痕跡はなく、手がかりは得られず、その日をさかいに、彼の姿はこの世から忽然と消えてしまった。Hector Manの映画が気に入ったDavidは、彼の映画についての本を書くことにする。本当の理由は、家族を失った深い悲しみを忘れる他の何かに集中したかったからだった。

本が出版された後、Davidのもとに奇妙な手紙が届く。「Hector Manがあなたに会いたがっている」という彼の夫人からのものだった。Davidはこの手紙が本当かどうか疑わしいこともあり、本気でとりあわなかった。しかし、ある雨の夜、ひとりの女性がDavidの家にやってくる。左の頬に大きなあざのある彼女の名前はAlma。Almaは「私と一緒にHectorに会いにいってほしい」と言う。彼女と一緒に向かった飛行機のなかで、AlmaはDavidにHector Manの謎について語りはじめる。

―― Hectorは本当に生きているのか、いったいなぜDavidに会いたがっているのか。DavidはHectorをめぐる物語に少しずつ巻き込まれてゆく…

作家について

ポール・オースターはニュージャージーで生まれた。「ニューヨーク三部作」(シティ・オブ・グラス、幽霊たち、鍵のかかった部屋)が高く評価される。映画にも興味を持ち、いくつかの脚本も手がけている。本作品は彼の10作目。妻で作家のシリ・ハストヴェットとともに、ブルックリンに在住。

感想

ポール・オースターをご存知の方は多いのではないでしょうか。数々の素晴らしい英米小説をおくりこんでいる、名翻訳家の柴田 元幸さんが彼の作品を訳していらっしゃることもあって、日本でも人気があるようです。そして、言わずもがな、この作品も素晴らしいものでした。特に最後の100ページは圧巻。これを読むために今までの物語があったのだと、ため息が出ます。

家族を失い、悲しみにくれるDavidの一人称で物語は進んでゆきます。決して明るくないトーンで一定のリズムを刻むように、文章が流れてゆきます。声高に何かを主張するような物語ではないにもかかわらず、強くゆさぶられるものが行間に隠れているのを感じます。

死んだように生きていたDavid、酒におぼれ、人と会わず、家に閉じこもって、この世から姿を消したHectorの本を書き続けます。それも、悲しみを忘れるために他の何かに集中したくて、目の前の時間を一秒でも埋めていくために…

Once you were on the other side of one of those holes, you were free of your self, free of your life, free of your death, free of everything that belonged to you.

Davidの言葉から引用しました。

彼はしかし、結局この世界に踏みとどまることになります。

お酒でまぎらわさなければ、夜を越えられない日々。ふと何かの拍子に失った人を鮮明に思い出してしまって、涙が止まらなくなる日々。

しかし声を殺して泣く夜は、生きていなければ体験できません。

そして大切な人を思い出すことも、生きていなければできないのです。

やがて、錆びついた大きな鉄の滑車が鈍い音をたてて少しずつ少しずつ回り始めるように、Davidの人生もゆっくりと動きはじめます。

生きてゆくこと、生き続けてゆくことの、何と奥深く、奇跡に満ちたことなのでしょう。大切な何かを失くしながら、重たい荷物をひきずりながら、たまには互いに励ましあって、とにかく生き続けていきたいと、そう言える自分でいたいと思わされる作品でした。

最後に、この本の存在を教えてくれた友人に感謝したいと思います。

さて、

先日、英語と日本語のエクスチェンジをする機会がありました。私の相手は韓国人で大学生の女の子。母国語であるハングルはもちろん、高校のときにアメリカに留学して英語はペラペラ。さらに日本語も「今は敬語を習っています」とのことで、なかなかのもの。しかも、彼女の専攻は二つあって(double majorというのだそうで)「経済」と「音楽」(ピアノ)だそうです。

まさに、天は二物を「与えてしまった」と言うべき、才能豊かな女の子でした。こういう人に会うと何だか大きなエネルギーをもらうようで、とても嬉しいですね。私も少しはあやかりたいものです。ヽ(*゜∀゜*)ノ

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コメント

ポール・オースター私も好きです。
邦訳本は読んだことないのですが英語でNew York trilogyを読んで彼の独特の小説の世界に魅せられました。

特に第1部作の、追う者と追われる者が入れ替わるような感覚、あんな小説は初めてでした。
他の本も読んでみたいと思っていたところでした。
この本も良さそうですね。早速amazonでチェックしなくては。

どきどきしながら読みました。
このままnikoさんの文章で物語の最後まで読みたい!と勝手なこと思いました。
育児中に本を読まなくなって、ここ何年かは洋書しか読まなくなりました。ですので、本のこと、作者のこと、よく知らなくてブログで教わることがとても多いです。
また読みたい本ができました!
これからも楽しみにしています。

今まさに私もポール・オースターの本を読んでいるので嬉しくなってしまいました。去年初めて彼の作品を読んだのですが、読みやすいのに心に訴える文章、個性豊かに描かれる登場人物、ストーリー展開の面白さ、何もかもにひかれています。nikoさんが触れていられるように、生きるということを深く考えさせられるのは今私が読んでいるMoon Palaceにも言えることです。The Book of Illusionsも読んでみたくなりました。
ポール・オースターって目がキリッとしていて、なかなか男前ですよね(笑)。写真で見るだけでも魅力的なおじさま、という感じがします(ということもあって余計に好きです。笑)。

リウマチばあちゃんさん
New York trilogyを読まれたことがあるんですね!?私は「幽霊たち」を和書で読んだだけです。リウマチばあちゃんさんのコメントを読んで、一部作目も読んでみたくなりました!それにしても読みたい本リストはどんどん増えるばかり…あせらず一冊ずつ丁寧に読んでいくしかなさそうです(*^^*)

さくらさん

>どきどきしながら読みました。

そう言っていただけると、とてもとても嬉しいです!私もさくらさんのブログを、いつも一緒にページをめくって読んでいるみたいな感覚で、拝見させていただいています。そしてたくさんのことを教えてもらっています。(*゚▽゚*)

Mufferさん
Mufferさんも、ポール・オースターを読まれているんですね?「Moon Palace」は読んだことがないので、とても興味があります(*^-^*)
そうそう、ポール・オースターの目力(めぢから)には、私もけっこうやられました(笑)。

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